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医院ブログ
古代中国(キングダム時代)の歯科医療
大人気漫画『キングダム』。主人公の信や、王騎将軍をはじめとする武将たちが命をかけて泥臭く戦う世界観は、多くの読者を熱くさせています。
しかし、彼らの活躍の裏で、私たちが普段当たり前のように付き合っている「ある病気」が、実は彼らにとって最も恐ろしい死神だったことをご存じでしょうか。
その病気とは、「虫歯」や「激しい歯のすり減り」といったお口のトラブルです。
現代なら「痛いけれど、歯医者に行けばすぐ治る」と思えるこれらの病気が、なぜ当時は「命取り」だったのか。2200年前の考古学的データから、その恐るべき実態に迫ります。

① 砂だらけのご飯とカチカチの干し肉が、兵士の歯を破壊した
キングダムの舞台である春秋戦国時代、人々が日常的に口にしていた食事は、現代とは比べものにならないほど過酷なものでした。
兵士たちの主食はアワやキビといった雑穀類でしたが、当時の原始的な製粉・調理環境では、微細な砂や石屑が混ざったまま調理されていました。さらに、遠征時の携行食だった「脯(ほ)」と呼ばれる干し肉には、牛や馬、さらには日常的に犬肉なども用いられており、水分を徹底的に抜いて乾燥させていたため極めて硬い状態でした。
こうした「砂混じりのご飯」や「カチカチの干し肉」を毎日噛みしめ続けた結果、当時の人々の歯は猛烈なスピードで削れて(摩耗して)いきました。
実際に趙国が北方遊牧民に対する防衛拠点として築いた土城子遺跡の屯田兵(実戦兵士)の遺骨を調査すると、極度にすり減った歯から神経(歯髄)が直接露出し、そこから顎の骨まで細菌感染が広がって深刻な膿瘍(根尖病巣)を引き起こしているケースが多数見つかっています。
過酷な戦場で歯を失い、咀嚼能力を奪われた兵士は、激痛と戦いながら食べ物を丸呑みするしかなく、深刻な消化不良や栄養失調から体力を著しく低下させていきました。
② なぜ「2200年」で骨はボロボロに崩れるのか? 〜万人坑に遺された奇跡〜
秦の始皇帝陵の建設に駆り出された強制労働者たちが葬られた「万人坑(労工墓)」からは、凄惨な労働環境を物語る121体の遺骨が見つかっています。
この遺骨は「約2200年の歳月」を経て現代に発掘されましたが、土中の水分や微生物の働きによって有機質(コラーゲン)が完全に分解され、わずかに触れただけで砂のように粉々に崩れ去る「一触即砕」の超脆弱状態でした。

しかし、考古学者たちがDNA鑑定を行うために安定して採取できた数少ない組織の一つがありました。それが人体で最も硬い組織である「歯(エナメル質)」です。
歯の表面のエナメル質は「ハイドロキシアパタイト」という非常に頑丈な無機質の結晶でできています。この強固な防壁が現代の汚染物質や土壌中の細菌から内部を完全にシールドしてくれたおかげで、DNA情報が奇跡的に守り抜かれ、当時の人々のルーツが解明されたのです。
しかし生前においては、この「最も頑丈なはずの歯」こそが、敗血症などの致命的な全身感染症を招くおそろしい入り口になっていました。
③ 虫歯を治すには「特殊なステップ」を踏むしかなかった
現代であれば、お口のトラブルになっても安全な麻酔や根管治療を受けられます。しかし当時は、痛みを和らげる確実な麻酔も、菌を殺す抗生物質も存在しません。
古代中国の人々は、文字が誕生した紀元前14世紀の殷の時代から、虫歯の原因は「目に見えない虫(牙虫)が歯の中に棲みつき食い荒らしているからだ」と信じていました。そんな時代にお口の病気に対して頼った治療法の一つが「呪術」でした。
当時の出土史料(周家台秦簡)に遺された虫歯治療法『已齲方(きうほう)』には、以下のような手順が本気で記録されています。
- 太陽が昇る東向きの古い土壁の前に立つ。
- そこから「禹歩(うほ)」と呼ばれる呪術的な特殊なステップ(片足を引きずるような不均等な歩行動作)を3歩踏み出す。
このステップによって大地を踏みしめ、神霊を動かし、口腔内で歯を食い荒らしている邪悪な力(牙虫)を踏み鎮めて追い出そうとしたのです。
一部の皇帝や貴族などの特権階級は、ツボへの鍼灸や殺菌作用のある生薬による治療を受けられることもありましたが、これも根本的な解決にはならない対症療法にすぎませんでした。一般の兵士や労働者たちは、ただ激痛に耐え、運が悪ければ命を落とすほかありませんでした。
④ 現代の歯科医療は、かつての英雄たちも羨む「奇跡」
激しい戦いを勝ち抜いたキングダムの英雄たちも、私たち現代人が当たり前のように受けている「痛くない治療」や、歯周病などの原因菌を完全に取り除く「予防プログラム」を見たら、きっと腰を抜かすほど驚くことでしょう。
「歯を守る」ということは、単に美味しくご飯を食べるためだけではありません。お口という「全身の玄関口」を清潔に保ち、細菌が体内に侵入するのを防ぐ、最も基本的な「命の防衛戦」なのです。

現代の歯科診療の様子
⑤ 古代の兵士が抱えた問題を、現代の予防歯科はこう解決する
記事の中で紹介した古代のトラブルは、現代の歯科医療でどう対処できるのか。具体的に見てみましょう。
歯の摩耗・神経の露出 → 根管治療で歯を残せる
砂混じりの食事で歯が削れ、神経が露出した古代の兵士は、感染症から逃れる術がありませんでした。現代では「根管治療(こんかんちりょう)」によって感染した神経のみを丁寧に取り除き、歯そのものを残すことができます。
感染の全身への波及 → 抗菌薬と早期発見で防ぐ
歯の感染が顎の骨、さらに全身へと広がり命を奪った当時と違い、現代では抗菌薬が細菌の拡散を抑えます。さらにレントゲンや歯科用CTを使えば、痛みが出る前の初期段階で問題を発見できます。症状が出てから気づくのではなく、「まだ小さいうちに対処できる」ことが現代最大の強みです。
呪術しかなかった虫歯の痛み → 局所麻酔で痛みをゼロに
「禹歩を踏んで神霊に祈る」しか選択肢がなかった時代から、現代では局所麻酔によって治療中の痛みをほぼゼロにすることが可能です。麻酔が切れた後に少し違和感が残ることはあっても、治療中の激痛に耐える必要はありません。
歯石・細菌の蓄積 → プロフェッショナルクリーニングで取り除く
毎日の歯磨きだけでは落としきれない歯石や細菌の膜(バイオフィルム)は、歯周病や虫歯の温床になります。定期的なプロによるクリーニング(PMTC)でこれを除去することが、古代の兵士たちが持てなかった「先手を打つ予防」です。
院長コメント
「古代の人たちと現代の私たちで、歯が持つ役割は何も変わっていません。食べて、生きるための道具です。違うのは、現代には『悪くなる前に防げる手段』があること。歯石や細菌は、初期のうちに取り除けば怖くない。重症化してから治すより、定期的に診させてもらう方が、患者さんにとってもずっと楽です。古代の武将たちは呪術に頼るしかなかった。でも今は、そこまで我慢しなくていいんです。」
古代の武将たちが喉から手が出るほど欲しがった「現代の歯科医療」という素晴らしい特権を、ぜひあなた自身の健康のために使ってあげてください。痛くなる前に、定期的な検診やプロによるクリーニングでお口の健康を守ること。それこそが、現代に生きる私たちができる最もスマートな自己投資です。
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